清水は、この会社での最初のキャリアを総務部からスタートさせた。そして2年後、テレビ部に異動し、現在は婦人雑貨を担当している。商品の仕入れも表現もまったく経験したことのない状態から、2年を待たずにヒット商品をものにした彼に、その秘密を尋ねてみた。
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商品は『ウォーキングシューズ』。見たところは何の変哲もないシューズでしかなく、それこそ靴の専門店や百貨店の売り場に並べられていたとしても、他の靴を押しのけて強烈にアピールしてくるようには見受けられない。果たして清水は、この靴のどこにヒットの要素を見いだしたのだろうか。
「最初は、単純に“生卵が割れずに跳ね返るクッション”という見た目の面白さに惹かれました」と清水は言う。
「軽いチャレンジのような気持ちでした。前例がないのでチャレンジしてみよう、と」
通常、テレビ通販では靴だけを扱うというケースは少ない。靴の他にも、バッグやジュエリーなど、いくつかの商品を組み合わせてのパッケージ企画とすることが多い。それが今回は靴だけの単品で、オマケもなし、値引きもなしの定価販売である。強気で押す、というより、「これでどうやって売ったのだろう」というのが普通の反応だろう。
このウォーキングシューズの違いは、素材に使われている『パワークッション』にある。このパワークッションはヨネックスが開発し特許を出願しており、衝撃吸収性は従来の素材に比較して1.3倍、反発性は3倍、そして重量は、なんと10分の1である。これを応用してつくったシューズは、軽くすることができるだけでなく、他にはない歩きやすさを実現できる。
しかし残念ながら、この“違い”は、靴売り場の店頭では表現することが難しい“違い”だった。
実は、この商品は発売時期と合わせてテレビで紹介されたのではなく、テレビ放映の一年半前から一般販売されていた。しかし放映前は、大きな注目を集めることもなかった。
それが第一回の放映だけで6,000足、好評を博しての2回目を合わせると計7,700足の注文を受けた。売り上げた、ではなく、注文を受けた、としかと言えないのはワケがある。1回目に用意した商品数は1,200足あまり。それでも余るのでは、とメーカーも、当の清水でさえも考えていた。結果は前述の6,000足。初回の売上げだけでも、メーカーの商品別目標販売数の1年半分を越えてしまったという。結局、すべてのお客様にお届けするのに約3カ月の期間が必要だった。しかし「どれだけ待っても、絶対欲しい」という人が後を絶たず、その後メーカーはこの商品の大増産体制を余儀なくされる。
「そうですね、苦労ですか…いや、むしろやり始めたら、やりやすかったように思います」
清水の口からは、こちらの期待する苦労話は漏れてこない。
放映された番組を納めたVTRを見た。目の前に置かれただけでは決して伝わらない商品の強みが、7分間でテンポ良く展開される。最初に注目したパワークッションの効果を玉子を落として証明することも勿論盛り込まれている。(司会者がパワークッションに玉子を落とすと、割れずに跳ね返る!)専門家のコメント、従来の靴との比較実験、実際の愛用者である陣内貴美子さんのVTRゲスト出演など、すべてが重なり合って商品の魅力を描き出す。
「誰でも有名になれる、5分間だけなら」とアンディー・ウォーホルは言ったが、清水の場合なら「埋もれていた商品もヒット商品になる、7分間で」だろうか?
しかし、彼の語り口からは成功者に多く見られるそんな“おごり”はまったく見受けられない。通常の同商品に比べると10倍の売上げを記録するという大きな成功を得ながらも、清水は自分の力をアピールするよりも、商品の魅力やスタッフたちの貢献に主眼を置いて、こちらにきちんと意図を伝えるように言葉を選んで話す真摯な態度を崩さない。
「結局、ヒットの決め手は当たり前のことを、きちんと伝えることでしょうか」
それが、実は難しい。言うは易し、いざ実行となると、なかなかできないことなのである。
このヒット商品は、今や購入者の口コミでロングセラーになりつつある。カタログでも店頭でも伝えきれない魅力をテレビが見い出し、消費者が育んだのだ。もちろん、そこには決して少なくない清水の働きがあった。たとえ本人が否定しようとも。
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